pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

ヌレエフ版『ロミオとジュリエット』

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さて。
やっつけDVD鑑賞はまだ続く。

年末に「見比べ」精神に火が付いたウサギさん。
ワーナーが出している、過去の「名舞台」30選が…ヤバいです。

↑これもそうですが、過去に買ったたっかいビデオをもっているのですが。
いまとなってはそうそう観ることができないので、2000円を切っていることをいいことに…買い直し。

こちらは1995年のパリ・オペラ座によるヌレエフ版。
1990年代のパリ人たちは、バスティーユ新劇場の落成がよほどうれしかったのか、こちらも先日の白鳥に引き続き、近代的ホールフィーチャーの映像編集。
今は「先生」をつけてお呼びしたいマニュエル・ルグリがロミオ、オペラ座きっての女優? モニク・ルディエールがジュリエット。

さてさて、ヌレエフ版は久しぶりにみたわけですが、やはりずいぶん忘れていました。
すごく死の色が濃い、と憶えていたのですが、それだけではなかった。

舞台美術はイタリア人が手掛けているらしく、まさにイタリア的色彩の背景に衣装。
そしてとにかく、登場人物が多い。
かなりの大舞台、やはりオペラ座クラスでないと…無理でしょう(※マクミラン版がレパートリーのロイヤルやABTは案外少人数でやっている)。
ヌレエフ版は、ストーリーの整合性をとにかく細かく拾っているため、場合によっては主要人物の後ろで説明的なシーンが同時進行するという、他ではあまり見られない演出があるのですが、舞台が立体的(というか4次元的?)にl構成されています。

マキューシオは、その陽気な性格がどのバージョンより強調して描かれているようにみえ、とにかく、取り巻きたちを含めたはしゃぎっぷりが半端ありません。
ベンヴォーリオはまたもやウィルフリート・ロモリ。この人の映像は、本当によく残っているなぁ…。

そして、ここでシャルル・ジュドが演じるティボルトこそ、私の中の決定版・ティボルトなのよ。
記憶よりずっとオジサンぽく(※メイクが少し変)野性的な顔(※ヴェトナム系なのかなぁ)でしたが、とにかく、もっとも多彩な顔をみせてくれるティボルトがこれ。貴族の次期家長らしいプライド、品よく、でも気取りすぎたところもあり、責任感も強く、頑な。
そして意外に複雑なステップが多く、しかし足さばきをすべて柔らかく表現しているのがスバラシイ。
というか、この時代のソリスト以上のオペラ座ダンサーたち(男性)はみんな、驚くほど脚の表現が柔らかく、うまいのですが。

長い間観ていない間に、ドラマ性の高さがマクミラン版に似ていたように思っていたヌレエフ版でしたが、どうもそうではなかったようで、先に少しふれたように、とにかく場面場面に矛盾がないよう、丁寧な描き込み(伏線も多い)がされており、ラヴロフスキー版ほど説明臭くはないものの、ある程度ラヴロフスキー版を踏襲しているようにもみえました。
ヌレエフが亡命してロイヤルに入る前、ソヴィエトではキーロフ(旧マリインスキー)のダンサーだったのも関係あるのかしら、とふと思う。

モニク・ルディエールは、確かにジュリエット向きの小柄・かわいらしい感じのするエトワールなのですが、やはりそれだけでジュリエットをやっているわけではないのがオペラ座のダンサー。
14歳のおきゃんな愛されキャラ、ジュリエットをちゃんとダンスの身体言語で表現しているのがわかります。
それプラス、高い演技力があり、これ以上のジュリエットはないのでは…、と思わせるのがオソロシイ。

今回のジュリエットは、従兄のティボルトとの関係は良好のようであり、最初の寝室のシーンでもティボルトはとてもジュリエットを可愛がっている様子がみえ、またロミオと秘密の結婚式を挙げたことを心から怒り、決闘のシーンへとつながっていくのは、案外珍しい感じですね。
そして、ティボルトの死を嘆くのはクランコ版・マクミラン版・グリゴローヴィチ版でも共通してキャピュレット夫人の見せ場だったのですが、ここで狂乱するのは何とジュリエット。
家族への愛(名家の束縛という意味でなく)とロミオへの恋との間で引き裂かれるジュリエット、というほかにはあまりない(たいてい、恋愛至上)描かれ方の一環か、3幕以降、急にジュリエットの周りは死の色が濃い、幻影調の描写が増えていきます。
そしてそのルディエールの表情が…、自分の意志で愛に突っ走っていくマクミラン版のジュリエットとの違いも鮮明に、ちょっと怖い感じに変わっていきます。

…とここまで書いて、あまりルグリ先生について触れてませんが。
悪いわけではなくて、特に全体がバランスよく素晴らしいのが、今回の舞台なのですよ。
しいていえば、やはりヌレエフ版のロミオはラヴロフスキー版のロミオに似ていて、何の苦労もなく名家の跡取りとして育った坊ちゃんが、対立する名家の令嬢・ジュリエットと恋に落ちることにより、現実の様々な困難な局面に立たされる…、という人物描写のようです。
単に恋にうつつを抜かしている男、というわけではなくてね。
それがもっとも顕著に表れるのが決闘のシーンで、たいていどの版もマキューシオの死をきっかけに激情に駆られティボルトを殺す、というのが標準なのですが、今回はあまり乗り気でないロミオを、周囲(モンタギュー一派)が急き立てて、しぶしぶ決闘に応じる、という気配が濃厚。
そして、そのためにジュリエットに責められるときの虚無的な感じといったら…。

珍しいついでに、たいていはマキューシオの死のシーンはティボルトの狡さとマキューシオの陽気さを対照的にみせる振付となるのですが、ここではマキューシオが真剣に苦しんでいるのに、かえって周りは冗談と受け止めて最後まで気づかない、というオオカミ少年状態。
前ふりが1幕にすでにあるのですが、こうした描写は珍しく、でもかえってリアルな感じ。
「はいはい、アーメン」といって受け流すロミオの表情は秀逸。

…とまあ。
まとめられないですが、とにかく最高の振付による最高の劇団の最高の出演者による舞台、といったのが本巻。
2000円は本当にお買得でおススメ。