
最近実見することがない「眠れる森の美女」。
チャイコフスキー3大バレエの一つ、ではあるものの、「白鳥」ほどドラマにならず、「くるみ」ほど音楽に魔法はなく、という個人的なイメージ。
記憶をたどると、2000年代にマラホフ&東京バレエ公演、KーBALLETのクマテツ&デュランテという今となってはゴージャス・ペアでの実見、初見のノイマイヤー版で見て以来のご無沙汰です。
今年2月に「ゼニス〜」のガラコンでヌニェス様の踊りを見たときに、有無をいわせないゴージャスさで圧倒するオーロラに感銘を受け?、ロイヤル版の全幕映像をみてみました。
(残念なことに、数年前に単体のBDを購入したのを忘れていたみたいで、痛恨の重ね買い)
ロイヤルの現役プリンスの中では最もエレガント王子(だと思う)のムンタギロフ氏とヌニェス様のゴージャスコンビですが、なんとなくもやっとして感想が出ず。
そんななか、過去のマラホフ先生鑑賞(文字どおり)の際に東京バレエのダンサーにもの足りず買った、デュランテ様主演のロイヤル版がVHSだったために購入した後ながく再見することができずにいたのを、このたびDVDが中古で手に入ったので20年ほどぶりにみてみることに。
バレエ初心者だった当時とは違い、とにかく数だけこなした今はあらためてで気づく事は多い。
上演は1994年。みるからにゴージャス・プリンセスのデュランテ様とペアを組む王子は、老け顔なのでベテランかと思っていたら、デュランテ様と同世代だった。
ゾルタン・ソリモジというエキゾチックな名前のとおり、ハンガリー出身だそうです。当時芸術監督だったダウエル先生のハンティングでソリスト入団、わりとこの後すぐロイヤルを退団していたようで、だから「誰これ?」状態だった模様。
主役ペアより驚きが多かったのは、踊らないフロレスタン王夫妻の配役。
王は今は振付家としてのほうがよく知られているウィル・タケット、王妃はエリザベス・マクゴリアン。
マクゴリアンは、2010年代上演でたくさん市販されているロイヤルのBDの王妃・マダムなどの年配女性役で軒並み映っていて、例のキャンベル君同様、ほかにいないんかいな!と突っ込みたくなる存在でしたが、なんと30年以上前から王妃役を務める人だったとは。
わりとこういうサイドの役は引退して貫禄が出たダンサーに配役されるもの、と思っていましたが、二人ともオーロラ姫の父母として実年齢相応の若々しいカップル。
そしてカラボス。カラボスはたまに男性ダンサーが配されるのは知ってはいたけれど(そしてこの映像は過去に見ていたはずですが)、今回はダウエル先生でした。
古い映像のリマスター版では音質が今ひとつで、本来劇的なカラボスの音楽がマイルド化されていましたが、エレガントでシャープ、という綺麗め背徳的な先生の姿は、ちゃんと見たかったなぁ。
なんというかまた、舞台にかけるダウエル先生の鬼気を見たような気がします。
期待、というかいろいろと距離をおいてみたせいで、いろんな事をぼんやりと思った今回。
三大バレエのうち、オーロラは最も、何もしない姫であることをあらためて認識。
生まれてすぐ、自分と関係ないところで二重に呪いをかけられているし、そうした大人の事情?でわりと出てきてすぐに意志と関係なく眠りにつかされる。
三幕はジゼルともバヤデールの「異界」とも違う、幻影としての踊りがあるけれど、これもまた特に背景(本人の事情)は必要がない踊り。
そして自分の意志と関係なくキスで目を覚まされ、結婚。
王子は王子で、白鳥のジークフリートほど身に迫った憂愁の説明描写はなく、登場早々になぜか一人悶々としている。
その上、特に戦うわけでなく、鬱蒼とした森に一人分け入るだけでもまあ勇気がいるのかもしれませんが、善の精という第三者のお招き(導き)で、封印されたフロレスタン城へ到着。
唯一の戦いの場、カラボスの結界も、リラ様がスイっと助けてくださる始末。
よくもまあ、そんなに得体の知れない女(オーロラ)に恋い焦がれるものだわ…、そんな王子のお悩みとは?と、いろいろツッコミを感じることしばしば。
…このように心の汚れた大人が見るものではない、というのが「眠り」なのだということがわかる。
なんというか、一貫した、おとぎ話なのだから。
舞台の上で繰り広げられるファンタジーだからこそ、リアルは不要であり、なるほど、クランコやマクミランのような戦争経験世代の舞台人が「眠り」を最上としたのもわかるような気がしました。
この「何もしない」ことこそ本当に難しく、だから本当の魅力を持ってオーロラを演じられるダンサーは稀有だろうし(何もしなくても観客を魅了する「華」を持って存在せねばならず、大円団を演じられる余裕とテクニックが必要)、全ての登場人物でもって、おとぎ話であることを完結させなければならないから、「白鳥」や「くるみ」ほど上演されないのかなー、と思う。
20世紀初頭の大興行主ディアギエフにとって「眠り」の興行は夢であり、借金を生む原因を作ったというのも納得。
チャイコフスキーの三大バレエの魅力ををそれぞれ一言でいうなら、白鳥はリアリティ、くるみはノスタルジー、眠りはファンタジー。
「眠り」を心から楽しむことができる人は、幸せな人なのだろう、と思う。
余談ですが、Y⚪︎U TUBEでシュツットガルト・バレエ団員による「オーロラに求婚する4人の王子は何を考えている?」というショート・コントのような映像が流れてきて、心の疲れたバレエ・ベテランにはオススメです。



