pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

マッツ・エクとギエムの『カルメン』

いつかは実見したいと思っていたエクを、東京バレエのギエム公演で観る。
ギエム姐さんは2年ぶり。

まずざっくりいって、わかりやすい。
エクなので、シュールなカルメン新解釈を期待していたのですが、ふつうに物語バレエです。

カルメンについては、たまたま同じ東京バレエ団アロンソ版を観たことがあり、ホセは首藤氏。
アロンソ版にも、運命を暗示する牛役の女性がいましたが、今回の「M」役もほぼそれに該当。
カルメン』は物語バレエですが、クラシックというより20世紀のモダンバレエなので、振付も、同じエク版でみた『ジゼル』や『白鳥』ほどエク独特のくどさも感じられず。
誰が振付てもカルメンの「意志ある女性像」というのはあるものね。
途中みんながあまりにも堂々とマッチを擦るので、消防法は大丈夫か?なんて思いましたが、そのせいかすえたにおいが会場に立ち込めて、タバコ工場(※たぶん、葉巻だろう。カルメンはタバコ工場の女工)という舞台設定が嗅覚を通じて演出される。
においのある舞台、というのもなかなかに新鮮。

ダンサー面でいえば、全体に東京バレエ団はモダンのほうがよくみえる。一演目の『エチュード』のような、中途半端なクラシックは組み合わせなければいいのに…´д` ;
カルメンの仲間の女たちの群舞の生命感はなかなか。

ただ、みんなあまり現代物語バレエに慣れていないのか、全体的に声出しが小さく、残念´д` ;。
恥ずかしがらずに、ちゃんとスペイン語を発声しましょうよ。

ホセ役のマッシモ・ムッルは驚くほど存在感がなくてビックリしますが、エク版のホセが陰気でつまらない男、という設定かと思えばそんなものか。
首藤氏のホセは真面目すぎてカルメンと合わなかったのか、という感じですが、これはこれでカルメンに飽きられるわよね´д` ;。

M役の高木綾さんとエスカミリオの柄本弾氏はどちらもよかった。
エスカミリオは前みたときは後藤晴雄(義雄?)氏だったのか、エリートでしゅっとしたスター、という印象だったのが…、いきなりギラギラした登場ぷりにビックリ。
ある意味、陰気なホセと対照的で、男くささがカルメンと意気投合ということかしらと、妙に納得。

柄本氏は以前、TVで忠臣蔵の主役で観、キャラクターを演じることがでかきる貴重な若手、と思ったのですが、今後に期待。
12月の土曜日の回が…、観たい´д` ;
(しかし内蔵助の深刻さと違い、彼のエスカミリオはおバカっぽい)

で、最後にギエム姐さん。

…なんというか、微妙。

もちろん、うまいしきれいなんだけど、カルメンはもう少しどっしりと、良くも悪くも生命感のあるほうがいいなぁ。
なんというか、実在感がないのよ。
(エクはカルメンを「あばずれ」というけれど、ギエムのカルメンはまだまだかわいくてコケット´д` ;。壁にへばりつく脚がギエムらしく自在なのですが…、妙にかわいい)
 
エクらしい、露骨な性描写もあったような気もしますが、ギエムが演じると何となく、きれいに無化されてしまう気が。
あらら。

ギエムの物語バレエは、『マルグリットとアルマン』や『三人姉妹』も薄っすらそう思った様な気が。
全く人間を感じられないというか、ギエムにしかみえない、ということもあるのですが、今回はあまり…、存在感自体がなくて、最終的に「ギエム観ました!」という感じもない。

そして、主役カップルが長身すぎて、日本ダンサーたちはたいへんだなぁ、とどうでもいい思いがよぎる。
カルメンの死を悼む男性がまるで小人のよう。
 
最後に、あらあら、というくらいにきれいに冒頭の銃殺シーンの構成に戻るのはよくできてますね。
すべては走馬灯のようにめぐる、ホセの回想なわけですな。
 
エク版の『カルメン』は今のところDVDが北米バージョンしか出ていないようなのですが…、他のダンサーでも見てみたいものだ。

想像と違う、ということもありましたが、全体的に目が離せないおもしろい舞台でした。