pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

レイモンド・カーヴァー「ブラックバード・パイ」

翻訳で文学批評というのもセカンドハンドっぽいですが、背に腹はかえられぬ(開き直り?)

本日現在、村上春樹は嫌いなのだけど(シンパシーが感じられずむかむかする感じ)、村上春樹を通してアメリカ文学に触れることが多いです。
その一人がカーヴァーで、結局古典ばっかり読んでしまう私にとってはめずらしく現代に近い作家(1980年代くらい)。

ちょっとシュールで怖い話、情けないけどあったかい話、いい話など、ショートストーリーが本当にうまい作家だと思いますが、晩年の『象』という作品集に収められた「ブラックバード・パイ」はその中でも異色なかんじがします。村上春樹いわく、死を意識し始めたころの影が出ているとかいないとか…

そんなことはともかく、主人公は歴史家なのか学者なのか作家なのか、たぶんその中のどれかで、中高年の男性。田舎暮らしをしているが、ある日突然、奥さんに家出を宣言される。が、その現実(あるいは奥さんの人格)を受け入れることができない。

カーヴァーはダメ男を結構書いているんですが、この主人公のような感じはめずらしい。
小説として決していいとは思わないんだけど、個人的にドキリとするところが…

冒頭で主人公は自分の記憶の良さを語りまくっている(小説は一人称)。
日本人の私がいうのもなんですが、アメリカ人がヨーロッパ史を語るのは笑える。
でも、歴史に範例を求めて現実を分析しようとする態度が、皮肉にも奥さんに愛想を尽かされる原因にもなっているし、「現実不適合者」ぶりがラストを悲劇的にしている。

…で、なんでかというと、この人自分に似てるんですよ。
私もかつてはものすごく暗記力があった(頭の中で年表を自由にくれるくらいに)。
それが高じて、大学も史学科へいき、今もそうしたバックボーンが仕事上も出てくるんですが…、でもそれって、自分は楽しいけど、第三者に話しても第三者的にはつまんないらしいんですよね。
しかも、最近は記憶力に不安(まだらぼけ状態)が…
アイデンティティ・クライシスにもなりますよね(T-T).

…批評というよりは、変な告白録になってしまいました。