pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

東京散歩。

まもなく、春のダイヤ改正
私が受験生のころは東京へは新潟の長岡経由が標準で、京都の大学へ行っていたころ、知らぬ間に「ほくほく線」なるものができており、隣県ながら初めて、「豪雪地帯」を知ったものです。
(海のそばは、日本海側もまだそれほど降らないものです)

そのほくほく線とも、ついにさようなら。
となる最後の「はくたか」に乗ってきました。
今年は暖冬かな~、と思う当地ですが、日本の豪雪地帯には見た目にかちかちな圧雪が1メートルほどまだ残っていてびっくり。
3階建て標準の十日町~湯沢あたりですが、屋根の落雪がたまったあたりは2階まで埋まっていて、「三八豪雪か!」(※実際は生まれてません)なんて思います。
何度でも書きますが、「トンネルを抜けると、雪国だった」という某文豪の文章は事実です。
しみじみ。

さて。

忙しいシーズンですが、昨年のバレエ不作の焦りから、モナコ公国モンテカルロバレエの『LAC』を観てきました。
(※紛らわしいですが、トロカデロとは別のカンパニーです)
昨年末から続いた、『白鳥』熱もいよいよファイナルです。

マイヨーは3回目、実はあまり好きではないタイプの振付家だったのですが…、私が大人になったのか。『LAC』は面白かったです。

昨年飽きるほどいろんな白鳥を観たこともあり、『白鳥』のあらすじやいろんな解釈、どこの音楽がどのシーンかも空でわかる域に。
そんな中、思い切った改変のあるマイヨー版は、ものすごくドキドキ感があって楽しかったです。
生オケではないのが残念ですが、音楽はかなり自由に編曲して使っている感じ。

現代の白鳥はますます「ジークフリートの物語」であることが多いのですが、この白鳥もまた王子の物語。
そして、この王子がヘタレなんだわ。
これがまた、リアル。

最初はプログラムを読んでなかった(プログラムも、筋としてはあまりはっきり書かれていない)のですが、彼と、彼を取り巻く両親との関係が観るだけでよくわかる。
珍しく父王がいるバージョンですが、父は息子を「マッチョ」教育で押しまくり、息子はかえって去勢される、という構図。
なぜか『イースタンプロミス』のロシアン・マフィアのボス親子を思い出しました。
そして王妃は、息子をいつまでも手中に置きたいという欲望を全身から出しているのがわかる。
別の意味で、子を支配しようとするもう一方の親の姿ですね。
というわけで、息子はヘタレに育つものですよ。

そして、ロットバルトは大きく読み替えられ「夜の女王」に。
どうやら、フクロウのロットバルトとは違って、昼間もで歩けるようです。
いるも脇侍におつきの男たち(ギャルソン風にパンクっぽい)を連れていて、この組ダンスがすごい。
ちょっとだけ、カラボスみたい。

普通の『白鳥』の1幕と3幕がくっついたような1幕で、ここで王子の花嫁選びも描かれているんですが、ヘタレ王子には現実の女性の生々しさが受け入れられないみたい。
よく、マイヨーは女嫌いなのかなぁ(彼の描く女性はみな、毒々しい)と思ったりもしますが、今回はまあ、笑える程度に。
そして早々に、王子も王も、、夜の女王とその子=白鳥に誘惑されています。

幕が変わって、なぜか王宮から自分の根城に帰っている夜の女王。
そこになぜか、白鳥の姫が囚われ、いじめられている。
王子は岩陰からこっそり、その様子をみている。
彼女は映像のプロローグにも出ていて、幼い日に王子の目の前で夜の女王に誘拐されたのですが、そもそもなんで誘拐されたのかは…わからない。
そしてここでの白鳥の群舞は、姫の仲間でなく、むしろ敵で怖い動きをします。

で、幼なじみ同士が再会。二人とも子どもみたいに無邪気で、本当に楽しそうなパドゥドゥを踊ります。

ところ変わって、3幕。
昨日のぐずぐずっぷりとはうって変わり、結婚への意志を示す王子に両親は大喜び。
そして祝宴に、再び夜の女王登場。
このとき、彼女が伴うのは黒鳥ではなくて白鳥。
通常の『白鳥』では妖艶なオディール=黒鳥が王子を骨抜きにするのですが、ここではオディールがそのまま白鳥に化けたといったところ。白い衣装を着た、夜の女王の娘なのですね。
でももう骨の抜けた王子はそんなことは気にはしない。
と、馬鹿っぷりは健在。

どういう仕組みなのか、だんだん白鳥の衣装がグレーになってきて、ようやく王子は「結婚」した白鳥を疑い、彼女もだんだんお行儀の悪い癖を出して母親に怒られる始末。ここが結構笑える。
そうしてようやく、王子も彼女が「白鳥の姫」でないことに気づく。
…て、馬鹿だよね。

とりわけ、現代の『白鳥』解釈は親子関係がいろいろ重要なポイントだったりしますが、ここでもそう。
親の過干渉がとにかく、明白。
王子が自分の失敗に嘆く間に、王妃が黒鳥の姫を嬲り殺してしまうのです。
そして夜の女王も夜の女王で、自分は「白鳥の姫」を虐げているくせに、自分の娘の遺体にものすごいショックを受けている。
…て、鬼子母神ですか。

なぜか、そこで王子は夜の女王に許しを請おうとするも、彼女も怒りは収まらず。
彼女は彼女で、「白鳥の姫」を絶命させてしまう。
自分の行為を後悔する王子…、と、ここはある種の『白鳥』パターンを踏襲。

最後までハラハラドキドキ、スピード感あふれるすごいリフトとごまかしのない人間の愛憎劇がとても現代的なマイヨー版白鳥。
意外なことに、マイヨーにしては新しく発表した振付らしいです。
やはり、『白鳥』は古典のなかでも抜群に、現代の振付家の興味をそそる題材なのだな~と思いました。