pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

「ハウス・オブ・グッチ」とファッションの夢の90年代

を観ました。

公開前からファッションサイトでかなり押し気味で紹介されていましたが、特にグッチに興味がなく、スルーしていましたが、なんとなく顔が気になるアダム・ドライバーが出ていることを知り、俄然観たくなり。

 

最近はアニメと邦画しかやらなくなった田舎のシネコンでも(ガガ様のお陰か)レイトショーをやっていることがわかり、週末は零度下にならないようだったので、やる気を出して行ってきました。

監督は賛否の振り幅が大きいリドリー・スコット。意外。

 

レンタルどころかネットで映画を見る機会が増えた昨今、このフィルムが大画面の劇場で見るものなのかどうか、正直、わかりませんが、でも少し期待はあったのは、イタリアの美しい風景が見られるもかも、ということ。

コロナ禍の昨今、海外旅行はかなり遠のいているし、でもイタリアはそもそも私の郷愁をものすごく誘うのです。

ハリウッド映画なので登場人物はみんな、英語で喋ってますが、時々、イタリア訛りのような発音を混ぜて、どちらにしろ外国人の私にはすごく効果的に響きました。

そして、そもそもイタリア系のガガ様、そのゴージャスな佇まいはイタリア女にしか見えん。

 

配役もゴージャスで、アダム・ドライバーは70年代といいとこの坊ちゃん風のもっさり感と品のよさが絶妙だし、イタリアン・パパのご愛嬌と強かな経営一族感が怪演ぷりを見せるアル・パチーノ、退廃的な美しさがゴージャスなヴィラにふさわしいジェレミー・アイアンズ、だめ息子怪演が素晴らしいジャレット・レト。

レトは「こんなにふけたのか!」と思ったけど、特殊メイクの賜物だったらしい。ハリウッドのメイク力、ほんとすごいね。でも、それに違和感ないレトもすごい。

そして、ファッション映画らしく、現在はピノー夫人でもあるサルマ・ハエックもジプシー女らしく登場。

…とまあ、名優揃い。

ソフィア・ローレンや、アナ・ウィンターのビミョーなそっくりさんが出てくるのはご愛嬌。

 

ところで、主役はガガさんの演じる、グッチ直系の最後の社長・マウリッツィオを「誘惑した」パトリッツィア(実在)なんだけど、全部見終わった後の感想としては、主人公の役割というか性格づけが今ひとつ曖昧かなーと思いました。

お金持ちのトッポいぼっちゃんを引っ掛けてやる!という思いはそれほど鬼気迫っても見えないし、金銭欲はそれほどがめつくは見えない(むしろ、最後に近いところのマウリの描写の方が、金遣いの荒さ〈ボンボンとはいえ〉が際立つ)し。偽ブランドや「馬鹿にされたグッチ」への怒りは、グッチの直系たちより強かったりするし。

経営(陣)に口を出すのも、ほんの一瞬(アルド一家をはめる一瞬)。

おそらく、月日の経過の描写があんまり明確ではなく、気づいたときに20年くらい経っているので、2人の関係の推移がトートツすぎるのかも。

逃避先が雪降るスイスの山荘、というのがいかにも北イタリアの「華麗なる一族」ですが、そこで(おそらく)旧友に再会したところで、庶民(とはいえ、小企業の社長の娘だから、まずまずでは)出のパトリッツィアとの育った環境の違い(ハイソサエティの教養を欠いた妻)に急に目覚めた、というのが急転直下風。

 

…とまあ、不思議と段々ガガ主役の映画、というよりはグッチ家なるものを見る、というふうになるのがなんとも、だけれど、それはそれで、興味深いフィルムでもあります。

 

実際にマウリが暗殺された当時は「グッチ家の悲劇」というのはそれなりに日本でも有名な話だったので、今回いろんなレビューで「知らなかった」という人が多く、当時すでにもの心つく年頃だった私はかえって驚きました。

90年代は、ジャンニ・ベルサーチの暗殺事件なんかがあって、最後の暗躍期を見せたイタリアン・マフィアとイタリアのビックメゾンの創立者の悲劇が目立った時期。

一方で、トム・フォードの登場のように、新世代のデザイナーが自身のブランドの創立ではなく、老舗メゾンの再生を活発化させたのがこの90年代から2000年頃のファッション界の動きで、サテン・シャツやベルベットのローライズのランウエイでの登場を見た時、個人的には懐かしさと当時の衝撃を思い出して感動。

確かに、緑と赤のリボンや、GGマークに古臭さしか思わなった10代の私が、トム・フォードの「不良ブルジョア」っぽい、新世代のラグジュアリーを見せつけられた時の衝撃といったら、コロナ禍のファスト・ファッション全盛の2020年代にはもう二度と望めなさそう。

あの頃のファッションには、夢があった。

 

と同時に、外国資本のM&Aが描かれていたように、まさにピノー家のような、ファッションが創業者デザイナーの経営を離れ、巨大資本の下の再編に翻弄されていく時代の始まりでもありました。

 

「経営の才能がない」と言われたマウリの描写がやや戯画的でしたが、「グッチの再生のために新しいデザイナーにアルマーニを入れろ」という発言、弁護士(だったと思うけど、いつの間にか経営パートナー)に一蹴されているところが、実は時代を変えるには創業者一族の誇りだけでは難しくなっていた時勢の象徴かしら。

 

「お前はグッチではない」の一言が全て。そしてその終焉。それがこの映画のキモなのかしら。

なので、後半、ガガ様が主演であることを若干忘れてしまいました。だからこそ、映画のタイトルが「ハウス・オブ・グッチ」なのかしら。

 

焦点が定まりにくいですが、細部はとても興味深いお話。

マウリの暗殺がもうちょっと、ファッション界の転換を駄目押ししたふうに描かれていれば、統一感のある面白さがあったかも・・・と思いますが。