pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

ノイマイヤー『ニジンスキー』

ここ数年、すっかりノイマイヤーびいきですが、ここへきて試練か…?

このところあまり舞台情報がなく、真冬の悩み深きシーズンでしたが、ハンブルグ・バレエ団の今年の来日公演が『ニジンスキー』と判明。
実見したいな~、と思っていた演目のひとつ。

世間並みの3連休に当たらないので、日帰りコース必須、かつ、冬の天気はわからない、という賭けがありましたが、えいやーで。

実際、今年の北陸はものすごい豪雪になり…、今はあちこちにできた数メートル級のピュアな雪山が雪崩(決壊)ることを恐れる日々ですが、奇跡的に昨日は晴れて、とにかくつかの間の雪国脱出に成功。
11月ごろは「ラニーニャってどうなの?」と半信半疑ですが、このごろの天気予報は本当によく当たりますね。

休みシフトの関係でキャスト選択に余地はありませんでしたが、ニジンスキー役のアレクサンドル・リブアコはオリジナルキャストだったようで。
なんとなく、セサミストリートのバード君や、頭髪が某江頭っぽいな…(ファンの人、スミマセン)と思っていたダンサーなので、あまりニジンスキーっぽくないかな~、と先入観が(ちょと、黒々しいイメージ)。
それはともかく、ハンブルグのダンサーの中ではキャラクターのある人ではあるし、他のキャストにもシルヴィア・アッツォーニやロイド・リギンズ(まだ踊っていたとわ!)がエントリーされており、楽しみにしていました。

さて、幕開け。
といってもパッキリ幕が上がるのではなく、開演前からずっと練習してるふうにみえたピアニストがそのまま舞台で鍵盤をたたき続けていて、ダンスしないほかの出演者が照明も落ちない明るい舞台の上にパラパラと登場するという、オン/オフのはっきりしない始まり。

ここに、予兆が。

初見の舞台なので最初にプログラム(最近は高いな)を買っていましたが、このあらすじがものすごくざっくりとしか書いてなく、あまり筋書きを読んでも意味はないような。
かつ、キャスト表も、なんだか一人何役もあったり、登場人物がものすごい数だったり、と、とにかく紙情報が全然役に立たない。

全2幕2時間30分くらいの舞台ですが、これまで観てきたノイマイヤーの舞台が、古典再解釈であれ、とにかく「物語バレエ」だったのが、『ニジンスキー』はそれらと全然違った!というのが、わりと早くにわかりました。
なんというか、とにかく、『ニジンスキー』でしかないのです。

ところで、私のニジンスキー理解はどうやらバレエ・リュスに偏っていたらしく、発狂前後、というのをぼんやりとしかわかっていなかったようで…、冒頭はニジンスキーが最後に表舞台で踊った1919年、スイスのホテルで行われたこじんまりとしたサロン公演を再現していたのですが、これはじつはよくわかっていませんでした。

だから、最初はとっかかりがなくて(そして、リブアコはちょっと華がない)苦労しましたが、この現実のシーンから、ディアギエフの登場(たぶん幻影)を境に、その後はすべて、ニジンスキーの内面が描写されていくという…、モチーフに具体性はあるけれど、なんというか、完全に抽象的なバレエなのでした。

そこで、ふと思う。

個人的に、私がバレエみるきっかけになったのはそもそも1998年にセゾン美術館で開催された「ディアギエフとバレエ・リュス」展だったので、バレエ・リュスの初期の活動、ディアギエフの人間関係は頭に入っていたし、このときの熱で結構再演をみたことがあった(世紀末前後はオペラ座によるオマージュ公演映像が入手しやすく、当時のマリインスキーのスター・ルジマートフとプリセツカヤ様の上演もあった)ため、怒涛のように押し寄せる(ほとんどマスの群舞)ニジンスキーの思い出というのが同じスピードで理解できたんだけど…、これは知らない人にとってはさっぱりわけわからんのでは…と。

ニジンスキーとディアギエフの関係、ロモラとの結婚とバレエ・リュスとの断絶、あまりにも前衛的すぎた振付と惨憺たる評価、発狂への経緯、とかね。
しつこいけど、「あらすじ」には本当にさらりとしか書いてありません。

まあ、『ニジンスキー』というからにはニジンスキーを前もって知っていることこそ前提なんでしょうけど…、ダンスというよりも演劇的な舞台に思われたし、ダンスをみたいという人の満足度はどうなのかな~と。
結構、初見に持ってくるのはしんどい演目だと思いました。

とにかく、一服の鑑賞、というわけにはいかない。
評価も分かれるだろうなぁ、と。
私自身、面白い面もあり、でもどうなんだろう、と思う面もあり。
手放しの「ノイマイヤー礼賛」というのは、そうありえないようです。ある意味試練。

それにしても、シルビア様はすごいなぁ。
主役ほどの出番もないのに、何というか、無名性の強い役どころを無名性を保ったままこなしていくんですよ。
存在感がないのにすごいインパクト。

あと、「シェヘラザード」の音楽の使い方が面白かった。

リギンズのペトルーシュカはまんまペトルーシュカで、演じ方は面白いけど、いかんせん、衣装のせいか踊りがよくみえなくてちと残念。

ニジンスカヤの『結婚』が急に観たくなった。

ディアギエフの支配感(幻想だと思う)がすごい。知らないダンサーだったけど、適役。
ふと思うけど、ニジンスキー電撃結婚は謎が深い。

第一次大戦ニジンスキーの苦悩がよくわかっていなくて(なお、有名な『手記』は読んでいない)、ここは感情移入に苦労しました。

まだ具体性のあった1幕を終えたとき、この後どう2幕を終えるんだろう、と思い、2幕は終始ハラハラ。
まあ、これはこれこそニジンスキーの狂気の深まり(純化)かもしれませんが。

ちなみに、あとから読んだノイマイヤーのインタビューのほうが、彼自身「ニジンスキー」の中に何を見出したかをよく語っていたので、先に読んでいたほうが良かったか…、否、などと。

しつこいけど、一筋縄ではいきません。

なお、この演目は昨年NHKで放映されていたそうで。知りませんでした(TT) 。
これが映像化されており、BDで再見は可能。
すぐにはみないだろうけど…、またいつか観たくなる日が来るのか…な。

関係ないけど、ホールでノイマイヤー版オネーギンを謳う『タチアナ』なるBDが売られていて、タチアナというからにはオネーギンが主役ではない(し、オネーギンはなぜかスキンヘッド)のでしょうが…、『オネーギン』(クランコ)自体の映像が入手困難なので、買いました。

ノイマイヤー、謎は深いです。