pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

ザハロワinグリゴローヴィチ版『白鳥の湖』

さて。
予告通り、グリゴローヴィチ版『白鳥の湖』を購入。観てみました。

結論からいって、名盤です。

そもそも、一昨年末からタガが外れたように白鳥狂い?になりましたが、その原因になったのがグリゴローヴィチ版の白鳥。
旧ソの『白鳥』なんてどうせハッピーエンド&エキゾチシズムだろ~、と多寡をくくっていたせいで、あまりのジェットコースター的展開に呆然。
…しかしまあ、キャストが違うとはいえ、なんだか全然覚えていなかった。

ブルーレイは画面がクリアなのはいいのですが、どうも画面が白々としてみえ、プラス、近年のダンサーの力量(あるいはカリスマ性)の低下により、あんまりいいと思うことがなかったのですが、この『白鳥』BDの場合、編集なのか、ボリショイ劇場の演出力なのか知りませんが、BDのわりにはフィルムノワールのような暗さがあって(照明が暗いのか?)、最近の映像にしては重厚感がある感じになっていました。

そして、この1年に学んだことですが、グリ氏の振付はやはり徹底したダンス言語によるバレエであり、マリインスキーのようなウロウロする人物はおらず、一部唐突感があるにしても、ダンサーのグルーピング・舞台わりがうまく、立体構成を感じる舞台でわかりやすく、合理的に感じました。
(※ただし、近い年代の『バヤデール』はそうでもなかった…なぁ)

さて。
グリゴローヴィチ版『白鳥の湖』ですが、なんというか、今まで観た『白鳥』(ただし、クラシック中心に)の中で、最も抽象化が進んでいるな~と思いました。
ヌレエフ版だったらジークフリートの悩みの深さに焦点が当たっていたり、あるいは、オデット/オディールにみる女の二面性だったり、パトリック・デュポンのブルメイステル版ジークフリートだったら初恋の痛みだったりするのだけれど、今回のは、そのどれでもない。

オディットにしても、ひたすら悲運に支配されているヒロイン(女)という感じで、ジークフリートとの愛情、というよりは、「その悲運から抜け出せるチャンスを得るかも」という期待と、「やはりだめだった!」という悲嘆の擬人化みたい。

し、ジークフリートにしても、将来(約束された王位)に対する不安に揺れる青年、というよりは、初恋の幻想についていけなかった青年の典型像、みたい。

ここでのザハロワは、一部のレビューでは「さすがに盛りを過ぎている」という評判もありましたが、グリゴローヴィチ版に合わせて、すごくパーフェクトに演じていたと思います。

以前観たブルメイステル版の映像では、どちらかというとオデット向きだな~と思ったのですが、今回のオディールもある意味興味深かったです。
なんというか、ここでのオディールは誘惑者ではなくて、完全にロットバルトの女クローン。
とくに、グリゴロ版で特殊な設定、登場シーンでジークフリートと二人だけ青い照明の世界(幻想?)があるのですが、そこでの非人間ぷりったら、半端ないです。
照明が戻っても、とにかくオディールは誘惑者ではなく、「姿かたちが瓜二つ」であることだけに惑わされているジークフリートをバカにする存在でしかありません。

グリ氏自身、あんまりジークフリートの内面描写を重視していないようで、そういう意味では若い=無知の象徴である抽象化された存在を、若いデニス・ロジキンはうまく演じていると思います。
もともとはクラシック出身ではないそうですが、ボリショイらしいダイナミックな動きを体現しています。

ちなみに、私が初めて実見したバレエがボリショイ(しかも、主役がニコライ・ツスィカリーゼ)だったせいか、男性ダンサーがあれくらいやってくれないと、あまりバレエを観た気になりません。

グリゴロ版でもっとも特徴的なのは、やはりロットバルトの存在を大きくしたところでしょう。
一昨年前に観たとき(しかも、同じダンサー)よりはダサさが気になりましたが、とにかく、ただの夜のフクロウとか、騙し屋ではなくて、「支配する運命(黒)」として、ジークフリートとオデットへの影響力が強くなっています。

そのため、確かにところどころ、ジークフリートがロットバルトの力に引っ張られるような動きが、今回も再確認されました。
そして、この男性と男性との駆け引き(ダンス)は、やはりボリショイ・メソッド(というか、グリゴロか)ならではだな~と思う。

このグリゴローヴィチ版はおなじグリ氏のものでも改版版らしくて、一部ファンの話では昔のほうが良かった、そうです。
私は前者を観ていないのでよくわかりませんが、この2001年改版版(上演は2015)は、一部悪評が高いように、チャイコフスキーの曲の編成をグリ氏がかなり強引に改編しているらしいのですが、これは後者だけなのかしら。
そして、幕も伝統的な4幕ではなくて、2幕4場。
初めてみたときはアレレと消化不良になりましたが、最初からわかっていれば案外すんなりみられました。
し、なによりも、ロットバルト親子の高笑いアデュー後と白鳥の夜景の間に幕がないために、ロシアの伝統?、幕ごとのカーテンコールもなくて、マリインスキーのような間抜けな感じがなく、それはそれで効果的でした。

というわけで。
昔のグリゴロ版発掘と、ザハロワのブルメイステル版再見が、この後の課題です。
白鳥は面白いなぁ。