pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

『ラ・バヤデール』

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 最近、ファッションネタより増えたバレエネタ。
 年末怒涛のように買い足した未見DVDと奮闘中。
 
 さて。
 私的にはバレエを観はじめてごく初期に実見する機会のあった『バヤデール』。
 これもやっぱり、今思えばとてもロシア的演目。
 2000年末にキーロフの東京公演で、ロパートキナ&ゼレンスキーのコンビでみました。
 当時はダブルキャストのルジマトフ&ヴィシニョーワが圧倒的人気でしたが、休みの関係で公演を決めたのがこちら。
 ロパートキナは私が思うにキーロフが素晴らしかった最後の世代のプリマで、とても動きが柔らかく、インドの舞姫ニキヤにとてもしっくりきていた記憶があります。
 そして、最近は男性ダンサーがさっぱりのキーロフの前の世代であるゼレンスキー、キーロフらしからぬダイナミックな(もともと体操選手だったそう)動きをするダンサーで、これもまた、最後のソヴィエト世代か。
 
 ロシアで演じられる『バヤデール(バヤデルカ)』は、ソヴィエト時代のアンチ悲劇的結末の名残で、本来の脚本のうち「寺院崩壊」=天罰でみんな死ぬというシーンがないので、実際幕としては中途半端に切れてしまうのが特色。
 一方、ソヴィエト時代の亡命者・マカロワが西側に「寺院崩壊」のシナリオを伝えたので、いまでもロイヤル版にはこの天罰シーンが残っています。
 
 実際にみたキーロフは、そんなわけで2幕の「影の王国」で終わり、一幕でニキヤを裏切ってラジャの娘ガムサッティとの結婚を選び、ニキヤを死なせてしまったことを後悔してマリファナに溺れるソロルが、幻のなかにニキヤをみて許される?、という、何とも煮え切らないラストとなります。
 なので、当時マカロワ版を観ようと、ロイヤルでキーロフのプリンシパル・アスィムルラートワが客演しているビデオを購入。「寺院崩壊」のあるシナリオでようやく全幕ものとしての理解ができた記憶があります。
 
 ↑その後、マラーホフがいた頃のベルリン国立バレエで「寺院崩壊」シーンのある版を実見したのですが、こちらはあまり記憶にない。
 年末に久々DVD鑑賞で盛り上がった時、件のビデオで猛烈『バヤデール』を観たくなりましたが、なにぶんテープの再生機が…ない。
 DVD移植版は絶版らしく、中古でもなかなかの値段がするので、近年上演されたタマラ・ロホ&アコスタによるロイヤルのブルーレイを買うことになりました。
 
 前置きが長いですが。
 
 先にちらっと述べたように、今の私には『バヤデール』のシナリオは少々古臭く、ヘタレ主人公ソロルは白鳥のジークフリートほど現代のコレオグラファーを刺激しないのか…、まったく、新解釈の余地のないシナリオで、エキゾジック命の19世紀的ロシア的演目だな~と思うのですが。
 
 なわけで、音楽もチャイコフスキープロコフィエフほど思い入れもなく、また何の特色もないのですが、案外覚えている自分に少々驚き。
 一幕の間に恋人たちの逢引、大僧正の横恋慕、ラジャによる政略結婚、ソロルのガムサッティへの陥落、二人の女の争い、婚約式、涙の踊りと謀殺がダダダと続き、意外なほどの展開の速さには少々びっくりしてしまいました。
 そしてインドの現実の世界では女性ダンサーがみなモロおへそ出しの衣装で踊らないといけないので、きついなぁ~、と。
 
 ロホとアコスタのコンビは他に『マノン』のDVDでみたことがあるのですが、ニキヤ役のロホは何というか、常に表情が暗い。真面目~にみえるのも、神殿に使える巫女(ダンサー)なので、仕方がないのか。
 さすがに「ソロルが後で待ってるって」と使者に耳打ちされた時の表情は、恋する女もさりありなん、ぱああ!という表情が劇的でしたが。
 しかし、ソロルとも最初はそんなにラブラブにもみえなくて、むしろ大僧正のほうが生き生きと恋しているようにみえておかしかった。
 
 今回何より見どころだったのは、ガムサッティを演じたマリアネラ・ヌニュス。この人はアリーナ・コジョカルやロホより少し下の世代で、以前の来日でも注目の新鋭的な紹介をされていましたが、実際にみるのは初めて。
 そしてガムサッティについても、以前はニキヤと対立するワガママお嬢様の典型に過ぎない、ただの脇役としてしかみていなかったのですが…、すごい存在感(古い版のロイヤルの映像では、ご贔屓 ダーシー・バッセルの配役だったにもかかわらず、印象に残っていない)。今回初めて、ニキヤとガムサッティがダブルヒロインのようにみえました。そして、その毅然とした美貌がスバラシイ。これじゃソロルも落ちるわな。
 
 ところで、19世紀ロシア的エキゾチシズム臭濃厚の舞台は、はっきりいって衣装がチープでは目も当てられず、ゆえに近年の本場ロシア(そして、どこか貧乏臭のあるベルリン・バレエ団)ではもっさりとみえるのですが、さすが西欧。衣装がとっても豪華で効果的。こうなると、古くてもパリ・オペラ座のヌレエフ版も乞うご期待ですな。
 
 ただ、主役級は面白いんだけど、コールドがいまいちよくないのが目立ちます。
 し、DVDのせいなのか、「影の王国」は私の記憶にあるよりも眩しすぎて、あんまり幻想的な感じがしない。
 シナリオのラストを欠くロシアのバレエ団による上演も、この「影の王国」の幻想度の高さがそれをカバーするというほどの売りなのにね。
 
 そしてブロンズアイドル。古いロイヤル版は当時ロイヤルにいた熊川哲也の配役で、その跳躍の柔らかさはまさに神業なんですが、今回のはなんか…重たいなぁ。
 全身金ぴかにぬって踊るキワキャラですが、それ以上に存在感がない。
 これは最終幕の結婚式のシーン冒頭ですが、ここでしぶしぶ?新郎になるソロルの周りにニキヤ(霊なので、表情が厳しい)の影がふらつくのですが、それを不安に見守るガムサッティの様子が印象的です。
 この様子がむしろソロルの誠実な様子だとしても…、やっぱりソロルダメンズだよ~、やめとけよ~、というのが私の心の声。
 
 結局、神に使える踊り子(バヤデール)を謀殺したのはガムサッティとラジャなわけで(裏切ったソロルも同罪)、それが神の怒りに触れ、式中に落雷があり寺院が崩壊、みんなその下敷きになって死ぬ、というのがオチ。
 ところで、このシーンは映像がCG処理されているのかなぁ…。その真偽を知るためだけでも、実見したいと思いましたが、混乱の様子がとても劇的。
 
 それにしても、今思えば、ラストがあの世で再び結ばれたソロルとニキヤ、というのがどうにも解せません。ソロルも同罪だろ~?
 
 ↑というわけで、至極現代的じゃないよね~、と思うのが『ラ・バヤデール』という演目。
 これは21世紀、どうなるのかね。