pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

白鳥みて比べ③

先週の白鳥の盛り上がりで観なおした、伝説のプリマ マイヤ・プリセツカヤの『白鳥』。
あらためて、興味深いフィルムです。
 
プリ様はさておき、編集がとにかくソヴィエトっぽいんですわ。
だいたい全幕の白鳥は120分くらいの映像であることが多いのに、80分。
ここで大体、編集されて(カットされて)いるのが予想されてくるところですが、まずはプロローグの音楽の間、「ロシアが生んだ偉大なる音楽家チャイコフスキー」的な画像(肖像や譜面など)が流されます。
 
宮殿のような劇場に、いかにも上気した感じでやってくる観客が映し出されます。
 
そして幕。
ダンスというよりは演劇をみるようなクローズアップでステージがとられています。
グリゴローヴィチ以前のボリショイなのか、ここではあまり男性舞踊手によるアクロバットな演出がなく、ジークフリート役のファジェーチェフも、比較的舞台の上をウロウロする感じ。
 
そして、プリ様登場。
 
プリセツカヤは、以前You tubeの印象で何となく強気な(ちょっと意地悪っぽい)イメージがあって、このDVDのジャケットになっているオディールの表情もそうなんだけど、すごく悪魔っぽい感じがオディットで大丈夫か?と思っていたのですが…。
さすがプリ様。オディットはすごく優美で繊細。
今どきのダンサーのような、超絶技巧はない(6時のポーズとか)のですが、表現力がものすごく豊か。
 
プリ様を同時代で観ることができた人はさぞ幸せだろう、と思うのですが。
それもまさにありなん、という感じで、いかにもうっとり舞台を鑑賞する観客がしょっちゅう映し出されています。
 
が、これは「プリ様礼賛」というよりは、私にはソヴィエト礼賛の演出にみえるのよね。
なんだか、1950年代の、社会主義がまだ夢のように信じられていた時代、皆が勤勉に働いて文化に貢献し、また皆が平等に高い教育を受け、その果実(=芸術)を平等に享受している、という、古き良き?時代の教育(プロバガンダ)映画みたい。
 
実際のプリ様は、ユダヤ人だったこともあって、常に当局から危険視されており(父親がスターリンの粛清にあっていたり、西側スパイを疑われていた)、そんな苦難の中でもバレエへの献身(ソヴィエトへの、ではない)を貫きとおし、やがて「闘うバレリーナ」と呼ばれるようになったことを考えると、何とも皮肉なんだけど。
 
そういう意味で、一度で二度面白い映像。
ラストは「ファイト&愛は勝つ」バージョン。
二重の意味で歴史的な映像といえますねぇ。