pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

ベジャール『ロミオとジュリエット』

今年はピナ・バウシュマース・カニングハムなどが亡くなり、一昨年のベジャールと合わせ、20世紀のコレオグラファーが一人、また一人といなくなる淋しさを感じる今日この頃。

ベジャール氏については、ドキュメンタリーのビデオは何本か出ていますが、彼自身があるビデオで「作品をビデオに残すことはためらいがある」とも語っていたような気もし、実際、有名ながらも現在はみることができなくなってしまった作品は多いように思います。
私のような、遅れてきたバレエファン(←というか、追いつくのはムリ。同時代に生まれてないし)にとって、彼が亡くなったいまとなっては、そのような現実はちと不満。

べジャールが亡くなったばかりのころ、追悼的な意味合いがあったのかは知りませんが、20世紀バレエ団時代の代表作の一つ、「ロミオとジュリエット」がDVDになって店頭に並んでいました。それを購入したものの、いつもの癖でついだらだら、観ずに放っておいたのですが、本日になってようやくみることができました(←つくづく、尻が重い)。
ジョルジュ・ドン没後、ベジャール氏は過去の作品を封印していたようにも思われるし、20世紀時代の作品は私にとって幻の「名作」。この勢いで「火の鳥「第九」「ニーベルンゲンの指輪」(←噂では5時間ぶっ通しらしい)もDVD化してもらいたいんだけどなぁ…。

ところで、今まで何本かみたことのあるロミジュリはすべてプロコフィエフだったのに対し、ベジャール版は音楽がベルリオーズ。メロディーのヴァリエーションで聴かせるプロコフィエフのイメージがどうしても強く、ベルリオーズの曲をこなすのが困難だということが発覚。
ほかの作品を観ていると、ベジャールの場合「音楽の解釈」というものが非常に重要な気がしたので、これはぬかった…、と反省。
バレエはある種能みたいなもので、実際に舞台を観る前に筋書きとか音楽とかについて知識がないと、楽しみが半減してしまう、というのが私の持論なのです。

収録されているのは1972年のフィレンツェのボボリ庭園が舞台で、これはビデオ用の上映だったのが、実際の野外劇場での上演記録なのかはよくわかりません。だって添付のカタログが全てイタリア語なんだもの(;‐;)。
でもイタリアの空気がすごくよく、また、オリジナルのシナリオがそうなのか知りませんが、ぶっきらぼうに入るナレーションのイタリア語が妙に懐かしく胸に迫ります(←学生時代と就職して間もないころに3週間ほどイタリアにいたことがあり、郷愁がよみがえった模様。イタリアでイタリア語を聞くとものすごく孤独を感じるのです)。またまた夏の旅に出たい~!と無性に感じました。え~ん…。

脱線ばかりでなかなか本筋に入りませんが…、ビデオはイタリアらしい昼下がりの庭園でソリストたちのくつろいだ様子から始まり、劇中劇のような感じでマスカレードのロミオとジュリエットと思われるカップルも登場します。
あくまでもシンプルですが、現代と古い風俗がゆっくりと交差して、クラシックのロミジュリの世界に徐々に感情移入できるような流れになっているのでしょうかね。
ここらへん、ヨーロッパ人・ベジャールのイタリア(=古典)解釈なのかなあ、と思ったりもします。
ちなみに、ベジャール自身も舞台に出てきて、若。いし、ちょっとコワい。

プロコフィエフ版の振付に比べ、ストーリー自体の追い方は実にあっさりしていて、いつ二人が恋に落ちたかという決定的な描写もなく、あれよという間にマキューシオが殺され、ジュリエットが仮死し、ロミオが後追い自殺してしまいます。
このへん、音楽が未消化な分、ストーリーをくむのがなかなか大変でしたが…、どうやって終わるんだろう?と思っていたところ、また練習着を着たダンザーが続々背後から現れてきました(※中央にはロミオとジュリエットが倒れたまま)。
シーンは冒頭に戻り、ダンサーたちの対立と、マエストロ(=バレエマスターのベジャール氏)の実に劇的な登場。この瞬間だけ、結構笑えます。

ところで、このDVDは古いビデオの古い画質そのままにDVD化されているようで、画像が荒く音も悪いんですが、ラストシーンでよく耳を澄ませてみると、空爆の音のようなものが聞こえます。
現代とクラシックをどう扱おうとしていたのか、ベジャール氏の手法はまだよく消化できていませんが、この人ははたしてメッセージを込めるタイプのコレオグラファーだったっけ?(※当時として)と、ふと疑問を覚えました。
よく考えてみれば、当時は冷戦の最中だから、時代的にはそうした空気があったんでしょうかね。あと1972年だからベトナム戦争か?
私の中でベジャール反戦はあまり結びつかないんだけど(←あくまでも偏見)、ロミジュリ=対立の悲劇として抽象化させていたのかなぁ、とも思った次第です。