村上春樹の新訳による、レイモンド・チャンドラーのマーロウシリーズ第1作。
勝手しばらく放置していたものを、春の旅行をきっかけに読んでみました。
とにかく、この頃は本を読むのがしんどいお年頃。
村上氏はマーロウの最後話『ロング・グッドバイ』から翻訳を手がけていますが、この『眠り』はマーロウシリーズの長編のなかでも第1作。
1930年代の作だから、だいたい、『ロング』とは10年くらいの時差があり、その間マーロウも7,8歳くらい歳をとっている。
印象として、村上氏は自分が訳したい順に訳した、というように思われますが。
なんでこの第1作を放っておいたんだろう、と思いましたが、読後、何となくわかるようでした。
なんとなく、『眠り』は『ロング・グッドバイ』の原形のような気がします
マーロウはまだ30代前半で、言い回しのくどさや血の気の多さは『リトル・シスター』に近くてちょっぴり若気を感じます。
そして、4作目になるとだいたいお約束、女は悪で、男は愚直。
金髪は破滅の女神、黒髪は賢女というのも、1950年以前のハリウッド・セオリー的。
(ただし、『リトル』では悪女は黒髪)
登場人物が多くて、なかなか名前と立ち位置を覚えられない前半は読むのに苦労しましたが、ミステリーはものすごくうまく解きほぐされてやがて1点になるところが鮮やか。
そして、文中、決して本人が出てくることがないにもかかわらず、重要な人物であるアイルランド系の娘婿。
偶然、本名が同じ「テレンス」であること、ダメ男だけれど何かに一途であり、妙にマーロウを魅了するところがあるところも共通しており、作中ずっと「死んでいる」(ただし、『眠り』のラスティーは文中ただの行方不明者の扱いであり、『ロング』のテリーは逆に文中故人扱い)ところもまた共通。
そして「眠り」も「長い別れ」も、どちらも死の隠喩。
悪女カーメンはシルヴィアとアイリーンを足した登場人物、という感じですな。
原点というか、表裏の物語だなぁ、という印象です。