pico_usagi’s blog

つれづれ鑑賞記を引っ越し作業中です!

バレエ「ジゼル」みて比べ

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コロナ禍でバレエ実見機会が激減中。

 

目下、アフター・コロナ(があるとすれば)に海外遠征ツアーが復活するかが、本当に気になるところ。

 

さて。

GW中にいろいろ音楽で遊んでいたときに、急に思い出したのが「ジゼル」。

個人的に、アルブレヒトがジゼルの墓にやってくるシーンの音楽がものすごく好き。

というわけで、まず持っているジゼルDVDを再見してみました。

(なので、過去と重複する記事もある鴨ネギ)

 

最初に観たのがオペラ座の2006年公演。

レティシアプジョルとニコラ・ル・リッシュのコンビです。

 

前にもかいたと思うけど、プジョルの、特に死後のジゼルは霊としての冷たい感じがものすごく印象的。

これによって、「ジゼル」が必ずしも無償の愛(男にとって都合のいい女性像)の具現ではないのだ、と思った、記念すべき一本。即ち、愛とは個人の感情ではどうにもならない、運命のようなものなのだよ。

ニコラはロイスとしてはもっさり君、だけど、さすが王子はかっこよくなっており、こちらも後半の方がおすすめ。

 

2本目に、「無償の愛バージョン」を観ようと思い、ザハロア&ボッレのスカラ座版にしようかと思ったのですが、これがあんまり面白くなかったよな〜、という記憶があり、Amazonを漁ったところ、フェリ主役の古いスカラ座のDVDがヒットし、これを買いました。

 

フェリ主演の1996年公演は、以前ビデオで持っていて、今時ですから、再生できなくて再見が叶わなくなっていた映像。

以前は気づかなかったのですが、アルブレヒトはマッシモ・ムッルだったんですね…

ちなみに、ジゼルには1幕目の主役コンビ以外の見せ場に農民カップルの踊りがあるのですが、この農夫が、まだ21歳のロベルト・ボッレだった…

初見は2000年頃だと思いますが、なんと、歴史的な映像だったのですねぇ。

ボッレは、散々書いててきたように、私にはあんまり良さがわからない方なんですけれども、いつも何気なくみている農夫ダンスとは破格に上手い。

(ボッレ好きの方にはスミマセン)

ムッルも、私が知っているのは大体30代くらいの頃で、何というか、印象は薄いんだけど陰があるダンサー、というか、虚無的な感じがあるというか…、そういう意味では観念的なコンテンポラリーの方が似合うように思っていたのですが…

一言。

若くて可愛い(変態的)。

何というか、年齢的にもちょうどアルブレヒトのリアル年齢に被っている感じで、まだ青さが抜けないけど、ジゼルを経て大人になっていく、というような感じがうまくリンクしているのです。

踊りも繊細でバネがあり、キレイ。

 

あ、主役はフェリです。

フェリは「狂乱」の場がすごい、という評判だったような気がしますが、当たり前ですが、全体的に上手いです。技術もしっかり、感情表現についてきているという点でもさすが。

生前も生き生きと可愛い娘=ジゼルの表現が可愛いし、これは惚れますよね。

 

見比べポイントとしては第2幕の死後の表現なんですけど、これはプジョルが目を開けっぱなしで瞬きすらしないところに霊を感じたですが、フェリはものすごい伏目。前が見えてるのかな…というのが心配になるくらい。

これが死者と生者の違いの表現なんでしょう。

やや、私の思う「無償の愛」バージョンに近い関係性ですが、もうちょっとマイルドな感じ。

(都合のいい、とまで感じないくらい)

ラストのアルブレヒトの印象から、ジゼルだけでなくアルブレヒトの物語なんですね、と思うような映像です。

 

一つ残念なのは、ヒラリオンがややフツーの人にしか見えないところかなぁ。

オペラ座のロモリはちょっと気味悪さを感じさせるくらいだけど、基本的には「粗野」さがわかる描写があった方がいいと思う。

 

さらにもう一つ、ここでザハロア=無償の愛強バージョンを観ようと思ったけど、やっぱり、名盤を観たい、という気になり、ヌレエフ&カルラ・フラッチのローマ・オペラ座版、1980年公演を再見。

 

結論。やはり名盤です。

 

私自身は世代的にあまり詳しくないのだけれど、フラッチのジゼルはプリマの中でも伝説的なんだそう。

ヌレエフもやや歳をとった頃になるのだけれど(特にロイス時代の髪型が気になる)、やっぱり感情表現と技術においてはこれ以上のアルブレヒトは望めない、というくらい全てが素晴らしい。

全体的なメイクの古臭さが始め気になって仕方ありませんが(ミルタも…、トロカデロみたい)、見慣れてくると、そんなことをいっていられないくらいになります(笑)。

 

このバージョンは、先の2本と少し演出が違うな〜(お母さんによるウィリの説明〔脅し〕がない、ヒラリオンが最初「目に見えない」ウィリに襲われている、アルブレヒトの従者が墓参りを邪魔しない、コールドのウィリはベールをかぶっていない、教会の鐘がならない、など)、と、古いからかと思ったのですが、これはラヴロフスキー版なんだそうで、だからなのかしら。

でもそれはそれで、スッキリと踊り勝負でやっています。

 

残念なのは、ビデオ移植版のDVDなので映像がぼやっとしている所ですが、それをさっ引いても、全ての踊りがスバラシイ。

死後(第2幕)のジゼルは、やはり無償の愛より何だけれど、踊りの完成度の高さのせいか、甘さはそれほど感じられなくて、プジョルとベクトルが逆の霊的な感じ(人間でない感じ。うまく言えませんが)で崇高、というか。

 

映像はしょっちゅうブラボー出まくりで中断する(次の手のコールドがポーズに入りながら、進行が止まってしまうので、苦笑いしながらポーズを一旦解いたりする)のがちょっとイラッとしますが、実際にこの歴史的な舞台を目撃した(幸運な)人ならば、さもありんなん。

ほんと、そうしてしまうのもわからんでもないよ(笑)。